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ジョバーは取引所市場における流動性を確保する重要な存在とされていた。 ところが、株式取引の規模が拡大するにつれ、資本力の小さい取引所内の専門業者では、注文をさばき切れないという問題が大きくなった。
このため、ビッグバンでは、ジョバーとブローカーの区別が廃止され、ブローカーを兼業するマーケット・メーカーによる自己売買が容認された。 米国でも、ニューヨーク証券取引所と並ぶナスダック市場は、常時気配を提示して売買に応じるマーケット・メーカーによって支えられてきた。
マーケット・メーカーの中には専門業者もあるが、大手投資銀行のように、ブローカーを兼業するものも少なくない。 そこで、米国の業者規制では、フロント・ラング規制など一定の利益相反防止策を講じた上で、証券会社による自由な自己売買を認めるというこれに対してわが国では、伝統的に証券会社が流動性を供給するとか、妥当な株価水準を探る役割を担っているといった考え方が広まっていない。
それでも、機関投資家の大口取引によるマーケット・インパクトを回避するという側面で、証券会社の自己売買が果たす役割は徐々に理解されつつある。 最近では、終値、取引高加重平均価格(VWAP)といった特定の価格での注文執行を予め約束しておくという取引形態も機関投資家を中心に広がりつつあるが、そうした取引を証券会社の自己売買機能を介さずに実行することは難しい。
この点で、先に触れた取引所外取引の解禁は大きな意義を持った。 そして、実は、この取引所外取引が、最近の東京市場における自己売買比率上昇の一つの要因となっているのである。
もちろん、米国ナスダック市場のマーケット・メーカーに対しても、一九九四年には多くのマーケット・メーカーが協調して売買気配のスプレッドを広げているのではないかとの疑惑が浮上するなど、その仕組み自体に対する批判がある。 また、一九九七年以降のナスダック市場における電子証券取引ネットワーク(ECN)の成長は、マーケット・メーカーを介さない取引が、投資家の支持を得た結果とみることもできる。
ニューヨーク証券取引所等のスペシャリストについても、もはや市場では必要とされていないのに既得権にしがみついているとの厳しい見方もあるのも事実である。 東証における取引所外取引と自己売買の推移である。
比較の便宜上、株式委託手数料が完全自由化された一九九九年一○月を一○○としている。 この図からは、取引所外取引が解禁された一九九八年一二月以降、自己売買の割合が徐々に上昇してきたことが読み取れる。
同時に、少なくとも二○○二年四月頃までは、取引所外取引の増減と自己売買の増減がほとんど同じ動きを示してきたことがわかる。 取引所外取引と自己売買が連動するのは、証券会社が、取引所外取引で生じたポジションを、取引所での自己売買で解消するからである。
つまり、少なくとも二○○二年四月までの自己売買比率の上昇は、必ずしも「投資家不在」の結果ではなくて、取引所外取引という新たな取引形態の拡大に呼応するものだったと言えるのではなかろうか。 残念ながら、わが国では、J(株式店頭)市場におけるマーケット・メークが、一部の機関投資家から強い批判を浴びるなど、市場のプロフェッショナルの間ですら、自己売買が担う流動性供給という機能の重要性が十分に理解されているとは言い難い。

東京市場の現状についても、証券会社による投機的な自己売買が全くないと言うつもりはない。 実際、先の図を見ても、二○○二年四月以降、取引所外取引の減少にもかかわらず、自己売買が増加していることは、市場が投機性を増している証左とも考えられる。
しかし、その点だけに目を奪われて、短絡的に証券会社による自己売買に対する規制を強化するといった対応に走れば、角を矯めて牛を殺す結果に終わりかねない。 金融ビッグバンによる自由化の一つの狙いは、競争を通じて多様な証券会社を生み出すことで、様々な投資家ニーズに的確に応えていくということにあったはずである。
そろそろ、証券会社の役割は顧客の注文を市場へ流すことだけだという先入観から脱却し、証券会社の多様な機能を尊重すべきではなかろうか。 一九九九年六月に発表された「ナスダック・ジャパン構想」は、わが国の証券市場関係者に大きな衝撃を与えた。
何しろ、幾多のハイテク企業を輩出し、優れたベンチャー企業向け市場として高く評価されてきた米国のナスダック市場が、あたかも幕末の黒船のように上陸するというのである。 「フリー、フェア、グローバル」を旗印とした金融ビッグバンは、市場規制のあり方についても、取引所や証券業協会といった市場運営者が、互いに競争しながら市場全体の質を向上させる「市場間競争」の考え方を採用した。
とはいえ、直ちに起きたのは、既に取引の減少で存在意義を問われていた広島や新潟の証券取引所が、東京証券取引所との合併方針を打ち出したことくらいであった。 ナスダック・ジャパン構想は、市場間競争が、決して机上の空論ではなく、眼前の現実であることを改めて世間に知らしめたのである。
この前代未聞の構想を打ち出したのは、NASD(全米証券業協会)のフランク・ザーブ会長(当時)とソフトバンクの孫正義社長であった。 両者が合弁会社を設立し、新たに証券業協会を組織して市場を開設し、当初は米国ナスダック登録銘柄の取引を行い、その後は日本企業の株式公開も行われる場にしていくというのが構想の当初の内容であった。

しかし、NASD側は、日本市場の実情や規制に疎く、ソフトバンク側は、株式市場の運営というものを十分に理解していなかった。 このため、二○○○年六月に大阪証券取引所でスタートしたナスダック・ジャパン市場は、当初の構想とはかなり異なる内容をもつものとなり、結局は、取引開始後この結果、わが国における新規公開(IPO)社数は急増し、二○○一年以降日米のIPO件数が逆転した(511)。
この背景には、ネットバブルの崩壊で米国ナスダックにおけるIPOが激減したという事情もあるが、短期間で日米逆転にこぎ着けたことは驚くべき事実である。 というのも、わが国では、リスクの高いベンチャー企業の株式から一般大衆を遠ざけようとする、過保護とも言うべき政策が長年にわたってとられてきたのである。
このことを歴史を追って見てみよ決して順調には行かなかったナスダック・ジャパン構想だが、わが国のベンチャー企業向け株式市場に及ぼした影響は大きい。 東京証券取引所は、温め続けてきたベンチャー向け新市場の開設構想を前倒しし、一九九九年一二月にマザーズをスタートさせた。
一方、それまで日本版ナスダックを自任してきた株式店頭市場は、二○○一年七月、J市場に衣替えした。 三つの市場の関係者は、全国各地で企業向けの説明会を開催するなど積極的な誘致活動を繰り広げ、株式公開の門戸は急激に広がった。
ベンチャー企業の間でも、それまでは新卒採用が有利になるとか、オーナー経営者の相続対策といった程度にみられがちだった株式公開に対する認識が一変し、早期の公開で資金を調達し、急速な成長を遂げるというビジネス戦略が現実味を帯び始めた。 個人投資家を中心に、新興ベンチャー企業への投資に対する関心も高まった。

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